博士課程で留学することについて。奨学金や給料は?何年かかるの?

この記事では、現在海外で現役博士課程学生をやっている筆者むるむるが、博士課程での留学について書いていきます。 ちなみに私の専攻はコンピュータサイエンスで機械学習を中心に研究しています。

海外大学院と言っても世界中の大学院に精通しているわけではないので、博士課程進学の際に詳しく調べたアメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、シンガポール、ヨーロッパ諸国の話を中心にしていきたいと思います。大学院のシステムや雰囲気は同じ国でも同じ大学でも同じ学科でも研究室によって違ったりするのであくまで大まかな傾向として捉えてください。

言うまでもありませんが、これから海外留学を考えている方は、この記事は参考程度にして、自分でしっかりと調べてください。

ざっくりとした分類

ここでは話を単純化するために海外の博士課程のタイプをざっくりと二つに分けます。修士号をすでにもっている人が入ることを前提としているタイプとそうでないタイプです。大学によりますが全体的に、イギリス、オーストラリア、ヨーロッパの多くの大学院は前者であることが多く、アメリカ、カナダ、シンガポールは後者であることが多いようです。なのでここでは前者をヨーロッパ型、後者を北米型と呼ぶことにします。あくまでざっくりとした分け方で、イギリスにもここでいう北米型のコースがいくつかあります。この分け方だと、日本はヨーロッパ型になりますね。あくまで全体的な傾向を見るための、この記事で使うざっくりとした分類で、ヨーロッパ型、北米型というしっかりとした区別があるわけではありません。

博士課程って何年くらいかかるの?授業は?

基本的に、博士課程は学部や修士課程と違って、年数がしっかり決まっていないことが多いです。ですが、ヨーロッパ型は比較的短く、北米型は長めの傾向があります。私の知り合いには何人か日本で博士課程をやっている人がいますが(全員理系)皆3年で卒業しています。年数の短さで言うと、日本はかなり良い方だと思います。

また大学やコースのホームページを見てもわからないこともあります。私の場合は進学するPhDコースのホームページの情報を信じて4年のつもりで進学したら、うちの研究室の歴代で最短で博士課程を終えた人でも5年かかっていました。 コンピュータサイエンスコースのなかでも応用分野が専門の場合は3年ほどで終えることが多い一方、理論分野の研究をすると5年以上かかることが多いためホームページには平均4年と書いてあったのです。このような事態を避けたければ進学前に指導教官候補やその学生にしっかり確認しておくとよいでしょう。

博士課程取得は長い道のりになるので、30歳でもまだ学生、ということはざらにあります。博士課程進学を考えるときは、この点、覚悟をしておく必要があります。

ヨーロッパ型の場合(約2-5年)

ヨーロッパ型の場合、学生は入学時点で修士号を取得しているため授業をあまりとる必要もなく、年数も短めで平均すると3.5年程度なところが多い印象です。もちろん研究の進捗によっては、6,7年となることもあるでしょうが、北米型に比べると短い傾向があります。

北米型の場合(約3-7年)

北米型は修士号の取得が条件でないため、最初の1,2年は学部生並みに授業を取らなくてはなりません。この段階は修士課程と非常に似ています。この1,2年を終えた後に、博士課程の後半に進めるかどうかを決める大きな試験があることが多いです。博士課程で研究するつもりできても、ここを乗り越えられずに博士課程を断念する人もいます。その後、研究に専念するのですが、やはり時間がかかります。このタイプはトータルで4-6年が平均ではないでしょうか。

海外博士課程の奨学金について。国や専攻によっては日本の新卒給料の倍以上?

日本で博士課程の学生というと、厳しい競争に勝ち抜いた少数の人のみが少額の奨学金をもらえるだけということが多いと思います。日本で博士課程に進学した友人はとても優秀で、学部時代の成績は首席だったにもかかわらず奨学金が貰えずバイトせざるを得ないような状況でした。金銭面では、日本の博士課程は世界でも最悪レベルな印象があります。

ヨーロッパ型

イギリス・オーストラリアはお金の面では北米型に似ているところが多く、TAやRAをしながら月に15-25万円程度を奨学金として受け取るところが多いようです。一方で、他のヨーロッパ諸国では、博士課程は奨学金ではなくしっかり給与をもらっているところが多いようでした。ヨーロッパの国では狙えばそれなり給与を受け取れる大学もあります。例えば世界でもトップレベルのスイスの大学ETHでは博士課程の学生の給与は年間500万円以上で毎年上がっていきます。他にも調べてみたところノルウェーなど北欧の博士コースも、世界的に見て評価がそこまで高くない大学でも年間500万円ほどの給与のところがあるようです。物価の高さを差し引いても、これらはかなり恵まれているケースですが、博士課程で貧乏生活をしたくない人はこういった選択肢があることを知っておくとよいでしょう。

北米型

北米型は、TAやRAをやりながら最低限の生活費程度の奨学金15-25万円 ほどをもらうことが多いです。額は日本の学振と同じ程度でしょうか。私の大学もこのタイプのため、貧乏大学院生をしております(笑)博士課程に進学することで辛いことの内の一つは、お金だと思います。人によっては、そんなことを気にするくらいなら博士課程に進学するな、向いてないという厳しい人もいますが、やっぱりお金がないのは厳しいです。博士課程に進学するような人は優秀な友人も多いでしょうし(あくまで傾向としてですが)、周りがどんどん社会人として成功していきリッチになっていく一方で貧乏学生するのはしんどいです。このタイプの博士課程に進学する場合はこの点を覚悟しておく必要があります。

博士課程の学生の年齢はどれくらい?遅すぎることはある?

個人的には、博士課程を始めるのに遅すぎるなんてことはないと思います。私が大学院修士に進学した時に、70歳くらいで孫もいる、おばあちゃん修士学生を見たことがありますが、良い成績で修士課程を修了していました。そこまで高齢な方は稀ですが、私の所属する研究室では博士学生10人中3人は30歳以上で1人は子持ちです。平均年齢は27、8歳です。海外でも学部→(修士→)博士が最も一般的ではありますが、社会人を経験してから博士課程を始める方もたくさんいます。研究への情熱があれば年齢を理由に諦めるのはもったいないです。そもそも、日本ほど他人の年齢を気にする人は海外では多くないですし。

博士課程で専攻を変えても大丈夫?

これに関しても研究室や大学によりますし、その分野がどの程度離れているかにもよります。一般的に、ヨーロッパ型の場合は修士号を取得してある程度の専門性があることを前提にしていることが多いので、大きく専攻を変えることは難しいでしょう。北米型の場合は、北米型に比べると修士号の取得を前提としていない分、専攻の制約は緩いように感じます。

分野がどの程度離れているかも重要です。私の場合は学部で計量経済学、修士で統計学専攻(研究は機械学習)、博士でコンピュータサイエンス専攻(研究は機械学習)と専攻は違えど、データを統計的に分析するという点で一貫性があるので専攻が問題になったことはありませんでした。コンピュータサイエンスの博士課程をドロップアウトして理論物理学の博士課程へ進学した方にもあったことがあるので専攻がかけ離れていなければ、専攻の変更に関しては柔軟な場合が多いでしょう。

ただし、専攻分野がかけ離れている場合(例:文学→物理学)は一般的に難しいでしょう。その場合でも、今はオンラインコースがあったり、その中でもCertificateを出しているコースもあるので、そういった実績を重ねれば交渉次第で、 修士号取得を前提としていない大学なら、何とかなる可能性も0ではありません。志望するコースの担当者や指導教官候補に確認を取りましょう。

海外博士課程留学に向けてなにを準備すればよい?

何が重要?論文実績?成績?英語力?

博士課程進学の際に重要なものを挙げていきます。

必須ではないが、あるととても有利

  • 有名な教授からの推薦状
  • 論文実績

この二つを手に入れられる人は、博士進学する上でかなり有利になります。世界トップレベルの大学・研究室も視野に入ってくるでしょう。

ただし、これらを両方揃えられる人は多くないのでこれがなくても諦める必要は全くありません。海外の大学では、日本の大学ほど学部生や修士生の研究指導を指導教官がしっかりやってくれるところが少ないので(あくまで私の印象ですが)博士進学時に論文実績を皆が持っているというわけではありません。実績があれば間違いなく有利ではありますが、ないからと言って悲観するほどのものではないでしょう。

必要。しっかりと準備すべき

  • 学部(、修士)の成績
  • エッセイ
  • 推薦状:2-3通
  • 研究計画書
  • 面接

このあたりは努力すればだれでもしっかり準備できるところです。大学の成績はトップの大学に行きたいならGPAで3.9/4.0くらいは欲しいところ。最低でも3.5/4.0は取っておきましょう。もちろん、大学のレベルによってはこれより低くても受かることもあるし、他に秀でている部分があればそこでもカバーできるので、すでに低い成績を取ってしまっていても諦める必要はありません。

推薦状は2-3通必要なことが多いので、海外留学を視野に入れている人は少なくとも3人は良い推薦状を書いてくれそうな教授を確保しておきましょう。研究計画書は修士号を前提とするヨーロッパ型では必要なことが多く、北米型では必要とされないこともありますが、必要な場合は審査に大きく影響することが予想されるので、推敲を重ね、信頼できる人にチェックもしてもらってから提出するのが理想的です。エッセイも推敲を重ねて他の人にチェックしてもらいましょう。面接対策も必須です。

必須だが評価への影響は大きくない

  • 語学テスト

日本人はここで苦労する人が多いですが、語学テストはあくまで足切りです。足切りスコアさえ超えれば、ここに力を注ぐ必要はないでしょう。足りない点数が少しの場合は、入学までにスコアを取ることを条件に、条件付合格をもらえることもあるので、スコアが少し足りなくても諦めるのはまだ早いです。ただし、条件付合格はとてもプレッシャーがかかりストレスになるので、可能であれば、すぐに足切りのスコアはクリアしてしまいましょう。

留学後のことを考えれば、毎日留学先の言語の中で暮らしてくことになるので余裕があれば語学の勉強をしておくと、留学後の苦労が少しはましになるでしょう。

留学先の言語が英語の場合、日本人学生の多くは留学してから英語のスピーキングに苦労する方が多いので、留学後のことを考えて英語を少しでも話せるようになりたい方や、試験のスピーキング対策をしたい方は以下のDMM英会話をおすすめします。

英語を話せるようになるには、とにかく英語を話す頻度を増やすことが大切です。DMM英会話なら毎月6000円程度から毎日25分のレッスンでスピーキングの練習ができるのでお勧めです。筆者も留学前に使いましたが、良い準備になりました。

体験レッスンは無料なので、英語が苦手な人はとりあえず無料レッスンを受けてみて使えそうなら登録してみると良いでしょう。

基本的に、審査は総合的にされるので、上のリストの中からいくつか自信のないものがあっても諦める必要はないです。

どんな人が博士課程留学すべき?

個人的には「したい人がすべき。ただし、覚悟はすべき」といったスタンスです。

海外留学、博士課程進学について「日本でできる研究を海外でしても意味がない」、 「博士課程は大学に残って研究をしたい人が進学するところ」、「研究に人生を捧げられないなら博士課程に進学すべきではない」なんてことをよく聞きます。

私の意見としては、日本でできる研究を海外でしたっていいと思いますし、大学で研究する以外にもキャリアはたくさんありますし、研究以外の人生を楽しみたい人が博士課程に進んだっていいと思います。

海外に出れば研究以外でも学べることはたくさんあります。日本の博士課程よりも良い待遇で研究できることもあります。

博士課程修了後の進路は大学や研究機関に限られていることなんてないです。私と同じ研究室のPhD学生で企業に行くよりも、はっきりと大学や研究機関で研究をしたい思っている人は2割もいません。日本企業に比べて欧米の企業はPhDを重要視する傾向があるので、良い条件で雇って貰うチャンスも増えます。

博士課程の学生は忙しいですがプライベートの時間が全くないわけではありません(研究室にもよりますが。。。)。もちろん、研究には全力を注ぐことが前提ですし余暇の時間も限られてきますが、その上でそれ以外の人生を楽しむこともできます。海外に行けばその国や周辺国を旅行することもできますし、博士課程在学中に恋愛をして結婚をする人も多くいます。人生を楽しみながら博士号を取ることだって可能です。

一方で、リスクを理解しておくことも必要です。博士号を取得したければ、数年間は生活のほとんどの時間を研究に費やすことになりますし、金銭的にも就職した人に比べると恵まれないことが多いでしょう。努力をしたからと言って結果が出るとは限らない世界ですし、それが原因で鬱になる人、研究が嫌になって辞める人、指導教官と合わなくて辞める人などが少なくないのも事実です。特に海外の博士課程は終わりが見えず、研究成果も出ないうえに、それを何年続けなければならないかもはっきりしないことがよくあります。海外という点で言えば、留学先の文化が自分に合わずに鬱っぽくなってしまうことだってあります。私の友人がそうでした。そういったリスクを理解し、覚悟をする必要はあるでしょう。

研究室を選ぶときに確認しておきたいチェックリスト

最後に、海外博士課程留学をこれからする人向けに確認しておくと良さそうなことを挙げておきます。

  • その大学、研究室で自分のやりたい研究はできるか
  • 指導教官候補の先生の実績は?最近、論文を出しているか
  • 指導教官候補の先生の学生の実績は?研究室の学生も論文を出しているか
  • ポスドクはどれくらいいるか?実績は?
  • 指導教官候補の先生と人間的にやっていけそうか
  • 研究室の大きさはどれくらいか
  • 指導教官候補の先生の、学生のマネージメント方法はどうか
  • 奨学金の内容は?何年間受け取ることができるか
  • その研究室では、平均でどれくらい卒業まで時間がかかるか

研究内容が重要なのは当たり前ですが、指導教官との相性や研究室の人間関係が重要なのは意外と見落としがちですし、私も当時あまり考えていませんでした。指導教官によっては、毎週ミーティングをして学生に一から十まですべてやることを指導する先生もいれば、ほとんど研究は学生に任せてミーティングは年に数回程度という先生もいます。人によって合う指導方法は違うと思いますが、合わない指導教官の下で数年間博士学生をやるのはつらいです。指導教官との性格が合わなかったり、指導方法に不満を持って辞めていく人は結構多いです。研究室が大きい場合は、教授が細かく全員を指導することが難しいため、ポスドクや他の生徒のヘルプが得られるかどうかも重要になってきます。

研究室を決定する前に、しっかりとネットで研究室の情報を調べましょう。わからない点は教授にメールで連絡を取る際に聞きましょう。研究室の学生に教授の研究室の運営方法はどんな感じかを聞くのも一つの手かもしれません。勿論、研究室の実態をすべて把握することはほぼ不可能なので、ある程度運の要素があることは覚悟しておきましょう。

以上です。

繰り返しになりますが、博士課程の実態は国、大学、学部、研究室ごとによってもかなり違ってくるのでこの記事は参考程度にしていただければ幸いです。

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